『3000万語の格差』:最近の研究

「手伝いをする子ども」実践編


 前回の記事の続きで、Michaeleen Doucleff記者自身が実践した報告記事です。

 訳す速度を優先させているため、翻訳はこなれていません。ご了承ください。


子どもが手伝いをするようになる方法:マヤの方法は使える?

●原文、写真、音声:How To Get Kids To Do Chores: Does The Maya Method Work?(2018年9月1日)

 自分の目で見なかったら、信じなかったでしょう。でも実際、私の目の前で起きたのです、子ども(元の英語preteen=「8~12歳の子ども」)が家事の手伝いを自分からするということが。文句や泣き言もなく、駄々もこねませんでした。そして、目に見えるごほうびも何もありませんでした。

 この特集シリーズのために、ユカタン半島に住むマヤの家族を訪れた時のことです。一人の母親にインタビューしている時、12歳の娘が言われもしないのに皿を洗い始めました。「あの子はもう十分に大きいですから、家の中で何をしておかなければいけないかをわかっています」、母親のMaria de los Angeles Tun Burgosはそう言いました。「私がちょっと出かけて戻ってくると、家の中がすっかりきれいになっていることもあります。」

 Mariaの近所の家でも同じ様子を目撃しました。12歳の女の子が床をモップで拭き始めたのです、しなさいと言われたわけではなく。この子の妹は母親を手伝って、鶏に餌をあげ、植物に水をまき、さらには、角の店まで夕飯の肉を受け取りに喜んで走っていったのです。

 いったい何が起きたのでしょうか? ユカタン半島が何かおかしいのか、それともマヤの母親たちは家事を手伝う子どもを育てる秘訣を知っているのでしょうか。

 原因は、どうも後者のようです。これまでの研究から、メキシコの先住民コミュニティ(とその子孫)で育った子どもたちは、そうではない子どもたちに比べ、自分から家事の手伝いをする傾向があるとわかっています。そして、このウルトラ・ママたちがしていることを、科学者たちも解明し始めたのです。

 6月に報道した通り(前の記事)、幼児が持っている力と、手伝いたくてしょうないと思う幼児の熱意をこの母親たちは活かしていました。1~3歳の子どもたちにおとなたちの家事の様子を見せ、家事に参加させているのです。この子どもたちはまだ何もできないのに。でも、手伝いたいという気持ちを持っている間に手伝わせることで、子どもたちはだんだんできるようになっていく、そうこの母親たちは話していました。

 では、この方法は米国の都会の家庭でも使えるのでしょうか?

 そこで、私は自分の娘、2歳のローズマリー(以下、ロージー)で試してみることにしました。ロージーは家事のあらゆることに興味を持っていて、皿洗いから朝食の準備まで、なんでもやってみたがっているからです。

 最初は悲惨でした。ロージーと2人で皿を洗う間に、皿は割れ、キッチンの床は水浸しになり、洗濯物もめちゃくちゃになりました。ミートボールを焼く手伝いをさせた時には、手首をちょっとだけ(テントウムシぐらいの大きさ)やけどしました。

 でも、どうすればマヤの方法がサンフランシスコの小さい家にも合うようになるか、だんだん私にもわかってきたのです。そして、結果は信じられないほどうれしいものでした。

 先週末、私が洗濯物をたたんでいると、ロージーがやってきて「お母さん、手伝おうか?」と言ったのです(私の心はとろけそうになりました)。

 今、娘は、自分から犬に餌をあげるようになり、皿洗い機に入れるために汚れた皿をゆすぎ、私と一緒に床を掃き、私がゴミを外へ出す時にはドアを押さえています。パンケーキを作るために卵を割るのが大好きで、皿洗い機のボタンも押し、洗濯機には洗剤を入れ、朝には私と一緒に犬の散歩をします(ある朝、「お母さん、犬のうんちを拾っていい?」と聞いてきたので、私は「うんちを拾うのはとっても特別な役目だから、あと何年か待ってね」と言いました)。

 娘がしていることは、とても小さなことです。私にとってはたいした助けになりません。けれども、彼女がとてもとても大切なことを学んでいるのは間違いありません。一緒に何かをし、力を合わせて取り組むこと。

 一緒に家事をする時、ロージーの顔には「ね、私ってけっこうできるでしょう、お母さん?」と言いたげな微笑みが浮かんでいます。

 私はどうやって、かんしゃく持ちの2歳児を手伝い大好きな天使(っぽい存在)に変えたのでしょうか。正直なところ、ペアレンティング方法をかなり変えなければなりませんでした。ロージーとかかわる方法を変え、家族の中における彼女の位置についても認識を変えたのです。

 つまり、こういうことです。

1. 家事を楽しい活動にする

 マヤの母親たちから学ぶまでは、洗濯、皿洗い、掃除、料理といった家事をすべて、ロージーが眠っている間にしようとしていました。そうすることで、娘が起きている間の「遊び時間」を最大限にしようとしたのです。

 今はまったく違います。

 ロージーが寝ている間(昼寝でも)、私はゆったりして、何かを読み、自分の時間を楽しみます。家事は、ロージーと一緒にするためにとっておくのです。

 すると、ロージーは家族の中で一人前の、仕事のできる一人だと感じることができます。実際、プラス面はその程度ではなく、もっともっとたくさんあります。

 私は娘に、本物の鶏肉を使って本物の料理を作る方法を教えます。居間に置いてある偽のコンロを使って偽の料理を作っている娘を私が見守るのではなく。

 「家事はお母さん、遊ぶのはロージー」と教えるのではなく、私はロージーに「家事は家族みんながするもの」と伝えているわけです。

2. 家事を済ませようとしているあなたを邪魔しにくる小さな妖怪を歓迎する

 ロージーが手伝おうとする時、私の心の中ではワンパターンの反応が起きます。「ちょっと、あっちへ行っててくれる? そうしたらお皿を洗い終えるから!」と言いたくなるのです。

 けれども、今はまるで違います。

 私は、ロージーの「手伝いたい」という気持ちを受け入れています。それどころか、私は彼女に「こっちへ来て」とさえ言います。もし来なければ、時には私がロージーの所へ行き、彼女がそうしたいと思うなら、私が家事をしている所へ連れてきます(ロージーがいやがって、いなくなるなら、そのままにしておきます。マヤの戦略の鍵のひとつは、励ますけれども無理強いしない、という点です)。

 私のゴールは、できる限りたくさん、ロージーを「活動」に参加させることです。たとえ、私がパンケーキを焼く様子を何度も何度も見るだけだったとしても、です。彼女がチームの一員だと学ぶためには、たったそれだけでいいのですから。そして、そのうちには、ロージーが私のためにパンケーキを焼けるようになるでしょう。

 そして、最高なのはこの部分です。おとなは何をしているのか説明する必要すらありません。子どもはただ見ているだけで、学ぶからです。ですよね!

3. ゆったりと家事をする

 マヤの家庭を訪ねるまで、私は家事を急いで片付けていました。洗濯物をたたむのにノロノロしている理由はありませんよね?

 でも今、私はゆっくり洗濯物をたたみます。

 私が急げば、ロージーと一緒にはできないからです。急いだら、ロージーが「始まった」と思う間もなく、私が家事を終わらせてしまいます。

 だから、私一人で家事をする時の2~3倍は時間をかけるつもりでしようと決めました。そうしてみると、時間がどんなにかかっても実はたいした問題ではなかったのです。もちろん、急がなければいけない時もあって、そういう時には私が大部分をしなければならないのですが、でも、そういうことはさほどありません。

 もうひとつ、ロージーに何かを頼むと、答えが返ってくるまでに夫や私の3~5倍はかかるということにも気づきました。彼女に手伝いをしてもらうには、ものすごい忍耐力が必要なのです。ある時、ロージーに「夕飯に使うから、庭からバジルをとってきて」と頼みました。彼女はまず「やだ!」と言い、次に「いやだ!」と叫びました。そして2分後、ロージーは台所から走り出し、バジルを取りに行ったのです(すばらしい幼児思考!!)

4. 幼児が終わらせることのできる作業をみつける

 マヤの母親たちから学んで気づいたことは、家事の中のほんのわずかなことであっても、何か貢献したという事実に幼児は喜び、自信を感じるという点です。

 たとえば、ゴミを外へ出す時にはいつも、牛乳のプラスチック容器やジュースの缶がビニール袋におさまりきらなかったり、袋に入っていたものが落ちたりします。ロージーにとっては、完璧な手伝いの機会です。彼女は「おまけのもの」を持ち、両手がふさがっている私のためにドアを開けてくれます。

 洗濯をする時には、ロージーが洗剤を入れ、スタート・ボタンを押します。皿洗い機に入れる前、皿をざっとゆすぐのも、幼児にはちょうどいい作業です。

 床を掃くために、私はほうきを2本買いました。床を掃く時には音楽をかけ、「踊りながら」一緒に掃除をするのです! 一緒に歌うこともあります。「一緒、一緒、いつでも一緒」。一緒に家事をする楽しさのもっとも大きな部分は、とにかく一緒にいて、一緒にすることだと私も学んだからです。

 そして最後。私の中にいた完璧主義者には消えていってもらっています。皿洗い機の中には皿が完璧に並んでいなければ、洗濯物はきれいにたたまれていなければ、床はきれいに掃かれていなければ、と、私はずっと思っていました。でも、誰がそんなことをチェックしにくるのでしょうか? 私の娘、ローズマリーがTシャツをたたむことで感じる自信のほうが、完璧にたたまれたTシャツよりも、将来的にはおそらくずっと大切なのです。

 

(要訳:掛札逸美。2018年9月11日)