『3000万語の格差』:関連情報

睡眠不足による経済的損失


 いつも聞いている経済ニュースの10月16日版で、この話をしていましたので、短いニュースですが掲載します。参考:睡眠と睡眠障害に関する米国CDCの情報サイトはこちら

 赤ちゃんや子どもにとって十分な睡眠が不可欠であることは、当然。ですが、2015年あたりから、睡眠不足はおとなにとっても重要な健康問題のひとつとして取り上げられるようになりました。成人でも1日7時間以上の睡眠が必要であるにもかかわらず、米国では3人に1人がこの長さの睡眠を日常的にとることができていないと指摘されています。

 米国の公共政策研究所、ランド・コーポレーション(RAND Corporation)のチームが、現存する研究結果や企業データ等をもとに睡眠不足による経済的損失、生産性の損失を計算したところ、次のような結果が得られました。結果は、OECDの5か国(日本、米国、ドイツ、カナダ、英国)について出されています(報告書そのものはこちら)。

 睡眠不足による経済的損失がもっとも大きいのは米国で、1年あたり4110億ドル(GDPの2.28%)、同国の年間国防予算に匹敵する額でした。次が日本で1380億ドル(=11兆円以上。GDPの2.92%)。米国の人口は日本の2.5倍以上、米国のGDPは日本の4倍ですから、実質的には日本のほうが大きな損失を被っていることになります。続くドイツは600億ドル(1.56%)、英国が500億ドル(1.86%)、カナダが214億ドル(1.35%)という結果でした。

 この分析によると、ほんの少しの改善で経済的効果がみられるとのことです。たとえば、6時間未満しか眠っていなかった人が6~7時間眠るようになれば、日本の場合、757億ドル(約8兆5000億円)の経済的な益になり、米国では2264億ドル、ドイツは341億ドル、英国は299憶ドル、カナダは120億ドルの経済効果になるそうです。

 睡眠不足は仕事の生産性低下の原因となり、労働日数に悪影響を及ぼしてもいます。米国では、本来、生産性に寄与するはずの労働時間のうち年間約120万時間が睡眠不足のために失われており、日本ではこれが毎年平均60万時間、英国とドイツでは20万時間、カナダは8万時間でした。(掛札が簡単に計算…。年間60万時間ということは、1日の労働時間を8時間として7万5000日分が、労働者の睡眠不足のために無駄になっているということです。)

 睡眠不足は死亡率にも影響しており、睡眠時間が平均6時間以下の人は、睡眠時間7~9時間の人に比べ、(寿命前の)死亡率が13%高くなり、睡眠時間が6~7時間の人でも、このリスクは7%高くなります(交通事故や。

 睡眠が短くなる原因は多様で、たとえば、肥満、砂糖の入った飲料やアルコール飲料のとりすぎ、喫煙、運動不足、心の健康の問題、仕事のストレス、シフト・ワークや不規則な仕事時間、経済的不安、長い通勤時間等です。


 以上の分析をもとにこの研究グループは次のような提言をしています。

●個人にできること:起床時間を決める(睡眠のリズムを安定させるため)。就寝前の電子機器の使用を制限する。エクササイズをする。
●企業(雇い主)にできること:睡眠の重要性を理解し、推奨する。職場の(照度を)明るくする。職域における心理的なリスクに対応する。労働者が電子機器を使いすぎないように呼びかける
●自治体等ができること:医療・健康従事者が睡眠に関連した支援を提供できるようにサポートする。企業(雇い主)が睡眠の問題に目を向けるよう働きかける。学校が始まる時間を遅らせる。


(訳者コメント)
 乳幼児の就寝時間が遅い、睡眠時間が短いと、ご存知の通り、成長・発達に直接的な影響を及ぼします。その背景には、おとなの睡眠時間の問題も隠れているわけで、そのまた裏にはおとなの長時間労働・通勤の問題もあります。「複雑すぎて解決できない」ではなく、できるところから個々人が変えていかないことには…、です。


(要約、解説:掛札逸美。2018年10月21日)