『3000万語の格差』:最近の研究

サスキンド博士のセンター訪問記など

(まだ続きます)


シカゴ&コロラド(日本時間の2018年10月2日~)



10月18日午後11時(日本時間)


 サスキンド博士たちのプロジェクトは家庭訪問から始まったわけですが、現在の別の柱は、産科病棟で子どもを出産したばかりの母親たちを対象にした啓発(介入)と、ウェル・ベイビー(Well-baby)の場を使った啓発(介入)です。ウェル・ベイビーというのは、日本の健診のようなものですが、このプロジェクトでは、1か月、2か月、4か月、6か月のウェル・ベイビーの場を使っているようです。

 いずれのプログラムもシカゴ大学メディカル・センターだけでなく、近隣の複数の病院でも実施されています。産科病棟の場合は母親が数日で退院してしまうことから、介入は一度だけ、動画を見せて話しかけの大切さを伝えているとのことです。一方、ウェル・ベイビーの場合は、健診を待つまでの間、待合室で動画を見せ、その後、子どもと保護者のやりとりがどのように変わるかも観察・検証しています。

 ウェル・ベイビーのプログラムはすでに介入実験が第3段階に入り、今は「話しかけの大切さ」を動画で伝える群約250人(介入群)と、「子どもの安全」を動画で伝える群約250人(対照群)を設定して、比較検討しているとのこと。比較のための対照群(コントロール群)を置くことで、対照群に比べて介入群は明らかに(=統計学的に有意に)話しかけの行動が増加・改善するという結果を出すことができるわけです。

 「え? でも、話しかけの重要性を教えられなかった保護者は損をするのでは?」とお思いになる方もいると思います。「倫理的に許されないのでは?」と。いえ、現状では「話しかけ」に明らかな効果があるとは証明されておらず、聞かなかったことで損をするという証明もありません。対照群は「子どもの安全」について動画を見るのですから、それはそれで意味のあることです。ですから、倫理的にはなんの問題もありません。これは、医療の世界で薬の効果を調べる際、二重盲検法を用いて「実際の薬」と「偽薬(プラセボ)」をそれぞれのグループに投与するのと同じ方法です。

(余談:科学的に効果があるとわかっている場合は、介入をしないわけにはいきませんし、効果があるだろうという段階でも介入をしたいと思う場合が多々あります。そういう時には、介入群に入るまでの「待ち期間」を対照群として使うこともできます。これを「ウェイティング・リスト(waiting list)対照群」と呼びます。サスキンド博士たちのプログラムも、なにかしらこのような手当てはしていると思います。)

 さらに今、サスキンド博士のTMWセンターでは、産科病棟、ウェル・ベイビー、家庭訪問をすべてつないで、介入を長期継続するためのシステムを作っているとのことです。約10000人の子どもを対象に、生まれた時から幼児期まで介入していく予定だそうで、前回の話に出てきた学部4年のステファニーは、そのためのシステム作りを担当していました。


 今回の写真は本書の第1章に登場するクアッド(Main Quadrangle)、シカゴ大学の中央に位置する大きな中庭です。サスキンド博士と歩きながら、「ここをその格好(手術着に白衣)にダウン・ジャケットを羽織って走っていたのですか?」と訊いたら、「そうそう!」と大笑い。なので、せっかくですから、手術着に白衣でクアッドを歩くサスキンド博士の後ろ姿もパチリ。




 さて、コロラドの話も。


 写真は、なんの変哲もない交差点ですが、ここが2004年2月、私の交通事故が起きた場所です。私は道のこちら側にいますが、写真の向こうに左右に見えている横断歩道が、事故当時、私が自転車で渡っていた場所。写真で言うと右(手前)から左(奥)に渡ろうとしていて、写真左の道路から出てきた左折車(日本で言えば右折車)にぶつかられたわけです。本人は頭を打って気を失いましたから、覚えているわけもなく、ポリス・レポートから「こういうことだろう」と理解しているだけですが。


 上の写真で私が立っているのが、その時、私が自転車をこぎ出した場所です。写真の向こうに車が見えますが、おそらくその時もこのように車がいて左折(日本で言う右折)しようとし、対向車ばかりを見ていて、横断歩道にいた私が見えなかったのだろうと思います。私の側は青信号。私にはまったく落ち度がありません。それでも起こるのが「事故=意図せずに起こる事象」。私にぶつかってきた車の運転手ももちろん、私にぶつかる意図などなかったのです。

 ちなみに、私はこの交差点にいた記憶がありません。私の記憶はもうひとつ手前の交差点で終わっています(事故直後、私は手前の交差点で事故に遭ったのだと信じ切っていました)。脳の働きとしては実におもしろいことですが、交差点ひとつ分の短い記憶(短期記憶)は、衝突の衝撃でものの見事に消えてしまい、その前の記憶(短期記憶から長期記憶にすでに移送されていたぶん)だけが残っていたわけです。


 「ヘルメットをかぶれ」とみんなに言われていたにもかかわらず、「みっともない」「じゃま」「私が事故に遭うわけがない(←楽観バイアス)」と思ってかぶっていなかった私は、この事故の次の日から、安全の心理学の勉強を始めました(本当の話。留学した際の専攻の希望はまったく違いましたから)。で、安全の関係で縁があって日本に帰ってきて、今は保育園の安全。この事故がなかったら、私はまったく別の仕事をしていたことでしょう。日本にも帰ってきていなかったのではないかと思います。もちろん、『3000万語の格差』を訳すこともなかったでしょう。


 別の話ですが、米国で事故に遭う、医療を受けるというのは、それだけで大変なことです。頭を打って気を失った私は救急車に乗せられ(救急車の中で意識が戻った)、車で10分ほどの総合病院の救急へ。頭のケガを5針縫い、「心配だからMRIを撮って」と言った私に、医者は「大丈夫」と言い、3時間後には「帰っていいですよ」。え、入院させてくれないの? 「夜中に2回、誰かに起こしてもらって。それで大丈夫なら大丈夫だから」。…は? 私の自転車、そこらでへしゃげているんですけど…。「じゃあ、誰かに電話して、迎えに来てもらって」…医者、電話機をずるずる引っ張ってくる…。渡米数か月、そのうえ頭を打っているのに、よくこの一連のコミュニケーションを英語でできたものだと思いますが…。医者の対応には疑問符だらけでしたが、頭は痛いし、からだじゅうが痛いし(左半身打撲)、入院させてくれないなら帰るしかない…。その晩は無事、過ごしましたが、いつ脳出血が起こるかという恐怖は1年以上続き、自転車にも半年近く乗れませんでした。

 米国では、保険の保障がなければ入院なんてまずさせません。まして、医者から見たら私は「どこかの国の留学生=信用できない」(実のところ、留学生は絶対に大学の保険に入っていなければいけないのですが)。事故や病気の時の入院率、治療の程度は、人種等で大きく違うのが米国です。後でわかったことですが、MRIなんてもってのほか。米国でMRIを撮ったら、ヘタすると30万円ぐらいの請求書が来ます。

 ちなみに、私の所へ来た請求書は全部で約30万円。救急車、治療、レントゲン写真数枚(私は記憶にないのですが「撮った」と医者は言い張る)などだけなのに、この額。ところが、米国人でこの額をすぐに払える人はまずいません(本当)。たいていの米国人は貯金を持たず、ましてタンス預金などなく、給料は右から左、コーヒー1杯もクレジットカードで払い、クレジットカードの支払いは日本で言ういわゆるリボ払い(利子しか払わない)。そうすると、一度の事故や病気で自己破産ということが少なくないのです。

 たいていの米国人が、ン十万円のお金をその場ですぐ払えないことを保険会社はよく知っています。ですから、こういった事故が起こると、保険会社の交渉人(みんな、ドスの聞いた人たちです。私も話しましたが)がすぐに電話をしてきて、「払えないでしょう? じゃあ、そのお金を払ってあげますから、慰謝料はこの程度で」と慰謝料を思いっきり下げ、保険会社の損失を減らそうとするわけです。

 この経験から言えること。日本の皆保険制度はとても大事。この制度を無駄づかいせず、大事にしましょう。


10月8日午後1時(コロラド時間)


 デンバー国際空港で、帰国便に乗る直前です。「晴れ!」が基本の北部コロラドですが、なぜか曇りと雨続き。フォート・コリンズからデンバーに南下する車中でも、まったくロッキー山脈が見えませんでした(泣)。今も小雨。もうひとつ、悲しいのは、今回、どこでもカウボーイ・ハットの人を見なかったこと(6年前はデンバー空港でも普通に歩いていたのに…)。デンバーに住んでいる友人も、「最近ほとんど見ない」。デンバー、フォート・コリンズ、ボウルダー(デンバーとフォート・コリンズの間にあり、マラソンの高地トレーニングで有名)、いずれもテクノロジー系の企業が増え、人口も増え、「おしゃれになりすぎ」(デンバーの友人)とのこと。…とにかく、帰ります。この報告記は帰国後も続きます。


10月7日午前9時(コロラド時間)


 TMWセンターが実質的に始まったのは、2008年だそうです。初めは、サスキンド博士と、本書にも出てくるクリスティン・ラフェル Kristin Leffelさん、ほぼこの2人だけで始まったプロジェクトが今の規模に近くなったのは、ここ数年のことだと言います。効果の証拠を示す研究論文が出れば出るほど、助成金も増え、企業等の寄付も増え、人も増え、研究の規模も大きくなるということでしょう。

 最初のプログラムは、家庭訪問。第1弾は205家族が対象(英語話者)。第2弾は200家族(英語)で、今年、全体が終わったところ。私がくっついていったのは第3弾、スペイン語を話す91家族。

 ひとつの家族を訪問するのは、常に同じ担当者。持参したラップトップの画面で画像やビデオを見せながら「3つのT」の内容をくわしく説明し、雑談もしながらロールプレイもします。その後、LENAを使って一日、子どもと親(おとな)とのやりとりを記録する日を決め、記録されたLENAを回収しにくる日も決め(担当者が回収しに行くのです!)、さらに、次の訪問の日も決めます。訪問日の最後には、前回のLENAの結果も渡して進度を説明します。「研究」とは言え、これだけの関わりをするのですから、家族と訪問担当者との間には強いつながりが育つわけです。

 回収されたLENAの内容は、センターですべて文字に起こされます(おとなの言葉だけでなく、子どもの反応も)。書き起こし担当の学生(有償)、さらに、起こした単語の分類、カウントがmorpho-linguistic的(形態音韻+単語の種類等)に正確かどうかを確認する担当の学生(有償)もいます(キャンパスのトイレに「アルバイト募集!」のチラシが貼ってありました)。1回あたり8時間以上の会話がLENAに録音されているわけですから、書き起こしも大変(元・編集者としてはよくわかります。それも親子の日常会話ですからいっそう大変)。

 家庭訪問に一緒にいったミシェル(女性)によると、こんなこともあるそうです。1日に2~3家族を訪問するミシェル。朝、出かける時、学生がある家族のLENAを書き起こしているのを目にする。夕方、ミシェルがセンターに戻ってくると、同じ学生が同じものをまだ書き起こしている。それぐらい大変。でも、これだけ細かく書き起こして、単語の分類まですることで、親子のやりとりの内容が詳しくわかることになります。(この話はまだ続きます)

 おまけ:センターで働いている学生は、あらゆる学部から来ています(フルタイムの職員も多様な専門から。下に出てくるSnigdhaはもともと化学専攻だったそうですし、ミシェルは生物学。これから始まる大きなプロジェクトのシステム作りを担当している学部4年生のステファニーは脳神経学)あ、Snigdhaは、スニ(グ)タと発音します。グは小さい音)。本書の訳注にも書きましたが、米国は学部の専攻がなんであろうと、医学大学院に入ることができます。ですから、「医学部」に属しているTMWセンターで働くことは、将来、医学大学院を目指そうという気持ちのある学生にとっては、実績として得になるわけです。同時に、いろいろな専攻・関心の学生が集まることで、プロジェクト自体にもさまざまなアイディアや知識、スキルが提供されることになります。そして、この人たちがどんなエリアで将来、仕事をしようとも、センターで働いた経験は活かされることになります。ヨーロッパの大学システムはまた違うので、これは米国独特だと思います。


 話は変わって…。コロラド州フォート・コリンズの丸2日間は、みんなとひたすら話し続け…。私のプレゼンテーションの写真は近々送られてくるはずなので、その時にまた。あ、プレゼンテーションのチラシはこれです。上の写真は、コロラド州立大学(CSU)のキャンパスから見たロッキー山脈のごく一部(デンバーの方へ南下すると、もっと高い山が見られます)。ハイキング・トレイルが無数にあり、雪も超パウダー・スノー。アウトドア系の人には天国。住んでいるだけで、高地トレーニング。

 私の教授(下の写真の右)がPublic Health Department(パブリック・ヘルス学部)の学部長ということもあり、今回の機会を作っていただきました。英語の「パブリック・ヘルス」は「公衆衛生」と訳されていますが、日本の公衆衛生学とはかなり違います(CSUに来るまでの仕事が、公衆衛生の一部である健診だったので、違うなあとつくづく思います)。米国では、健康も安全も一人ひとりの選択であり、国がケアすることではないと歴史的には信じられています。だから、「みんなの=public、パブリック」健康という視点を持つだけで、リベラル(もっとわかりやすく言うと「民主党的」)なのです。

 日本の公衆衛生は、どちらかと言うと「上から下に提供する」「上から下に教える」という要素が強いものです。子どもの健診からがん検診、感染症予防から何から何まで。米国でパブリック・ヘルスの分野にいる人たちは皆、「健康や安全は一人ひとりの選択だけれども、一人ひとりがより良い選択をでき、社会全体がより良い方向に向かい、貧富の差や人種による格差を減らし、資源(お金も人的資源も)がより効果的に使われるように」という価値観を共有しています。米国がもともと持っていた価値観(≒共和党的、またはリバタリアン的)では、「すべては個人の選択と努力」なので、パブリック・ヘルスの分野にいるだけで、これまでの米国の価値観からはかなり離れていることになります。

 ちなみに、「長いから略しています」と書いたTMWセンターの本当の名前は、「TMW:Center for Early Learning + Public Health」=「TMW:初期の学び+パブリック・ヘルス」です。つまり、TMWを進めていくことによって、子ども一人ひとりの生活がより良くなるだけでなく、社会全体の質が向上していくことを目指しているわけです。

 写真右が私の担当教授、Lorann Stallones先生(公衆衛生修士+疫学博士)。左は、当時、私もリサーチ・アシスタントをしていたコロラド傷害予防センターの運営を一手に引き受けていたJulie。2004年2月の交通事故(この事故がなかったら私は安全の心理学に取り組まなかった)の後、頭の縫合糸を取りに病院まで行く、保険をめぐる闘い(米国では、保険は「闘い」)をどうするかなどの現実的な話から、日頃の愚痴から何から何まで、まだほとんどまともに英語が話せなかった私をサポートしてくれた一番の人がJulieです。


 おまけ:昨夜はずっと、テレビの「ナショナル・ジオグラフィック」のチャンネルで薬物依存の番組を何本か見ていました。きわめて淡々としたドキュメンタリー。今朝、また点けたら、今度はナチス・ドイツのドキュメンタリーを流していました。同じものを何度も、違う日時に流しているようなので、なんとなく、いろいろ見られる…。私はすでに15年、テレビを持っていませんが、こういうドキュメンタリーなら見たいなと思った次第です。

 そして、米国のテレビには、実にたくさん、処方薬のコマーシャルが出てきます。「この病気かも」と思ったら医者に「この薬を処方して」と言えということなのでしょう。この2日間で見ただけでも、双極性障害、皮膚炎、骨粗しょう症などなど…。いずれもものすごい数の副作用(かなり深刻な副作用)をものすごい早口で言い、「医者に相談して」と念を押していますが、実際には「説明したからね。後はあなたの選択と責任だからね」という意味です。

 処方薬のコマーシャルを見ていて、大学院1年目、セミナーのプロジェクトで選んだテーマが「女性雑誌に掲載されている処方薬コマーシャルの中に描かれているイメージの分析」(当時は処方薬コマーシャルが解禁されて間もなかった)だったことを思い出しました。2年目、フィニックス(アリゾナ州)で開かれたロッキー山脈地域心理学会でこれを発表して、賞ももらいました (^^) 最初、あまりにわかりにくいパワーポイントのスライドを作ったために、Stallones教授に文字通りボロクソに言われ、泣きましたが(本当)。今でも、どこかのハードドライブに残っているはず。6回は作り直したから、あのスライド。アリゾナから帰って「賞をとったよ~」と言ったら、教授は大喜びでハグしてくれました。いまだに覚えている、13年ぐらい前の話。


10月5日午前7時(コロラド時間)


 昨夜、無事、コロラド北部のFort Collins市に到着。今朝は9時からプレゼンテーションなので、ちょこっと余談だけ。

 5時に目が覚めて、「なぜ?」と思ったら、シカゴとコロラドの間には1時間の時差があるから。シカゴでは6時過ぎに起きていたので、1時間遅れるコロラドでは5時。人間のからだはなかなか正確。きっと明日は6時に目が覚めることでしょう。

 そして、ここはmile-high(マイル・ハイ)と呼ばれる地域。北米大陸を縦断するロッキー山脈がカンザスやらあっちにだんだん下っていく真ん中あたりに位置するため、富士山5合目の標高(=標高1マイル)。お茶を飲もうと水を入れたマグカップをレンジに入れて、「これぐらいでしょう」と2分セット。開けたら半分に減ってました。しまった、忘れてた。富士山の5合目の高さなので、沸点が低い…。つまり、すぐ沸騰するけど、決して100度にはならないのです。そして、しっかり水を飲んでいないと、高山病になります…。

 写真は、デンバーからフォート・コリンズまでの道すがら。ずっとこんな感じで1時間。左手がずっとロッキー山脈なのですが、北上しているので写っていません。



10月4日午後1時(シカゴ時間) その2


 TMW(Three Million Words=「3000万語」)センターで私が見たビデオのスクリーン・ショットはそのうち送ってくれるそうなので、写真抜きで説明のみ。第一弾。あ、センターの名前はもっと長いのですが、略しています。

 今回、いろいろと話を聞いてようやくわかった重要なポイントがあります。それは、TMWで進んでいるプロジェクトはすべて研究だということ。つまり、ダナたちが作っているアニメや資料は、一般にはまったく公開されておらず、プロジェクトのどれかに保護者として参加しない限り、見ることも学ぶこともできないということです。だから、私がここに勝手に写真を載せることもできません。

 「効果があると思うなら、公開して誰でも見られるように、使えるようにすればいいのに」と考えるかもしれませんが、「効果があると思う」は「効果がある」ではありません。「3つのT」は、保護者が日常していることであり、子どもにとっても保護者にとっても害はありません。効果はもちろんあるでしょう。でも、多少であれお金と人力を投入してプログラム(介入)として実施するのであれば、「このプログラムをすれば、しないよりもずっと(統計学的に有意に)効果がある」という証明をしなければならないのです。日本はとにかく、この手の効果の証明をしませんが、「効果があると思う」でお金を使うのは、単なる無駄です。場合によっては、害かもしれません。

 一方、ダナは『3000万語の格差』を書き、実際におとなができることをはっきり示しています。7章のジェームズのように、TMWのプログラムから学んだことが口伝えに広がることもダナたちは喜んでいます。でも、そうやって広がっていくことと、「研究」として「明らかな効果がある」と示すことは別、ダナは間違いなく、そのように考えているわけです。

 『3000万語の格差』の中に出てくるように、同じようなプログラムは全米にたくさんあります。小児科学会も同じ内容を推奨しています。TMWのプログラムが唯一ではありません。だから、ダナたちは着実に「効果の証拠」を積み上げていこうとしている。最後に残り、広がるのは、効果の証明がたくさんあるプログラムですから。来年あたりからは、ついにひとつのコミュニティ全体を対象に、生後直後から始まる一貫した長期プログラムを試験的に始めるそうです。

 その前に、個別のプログラムの説明をしなければ、ですね。

 写真は、今回の訪問のスケジュールを30分刻みで組んでくれたSnigdhaさん(中央)。インド出身、聞くとすごい教育キャリアですが、ものすごく気がついて、優しい人。私が日本の話をさんざんしたので、「いつかインドに戻って、3000万語のようなプロジェクトをしたいと思っていたのだけど、日本で取り組もうとしているあなたの話を聞いて、すごく動機づけられた」と言ってくださいました。左のFernandoさんは、TMWのカリキュラム製作担当。



10月4日午後1時(シカゴ時間) その1


 さて、シカゴ・オヘア空港からデンバー空港まで飛ぶわけですが、とにかく何事も早め、早めが大事な米国(途中で何が起こるかわからない…、東京も同じですが)。10時にはハイド・パークを出てタクシーでオヘア空港へ(飛行機は2時)。運転手さんがなかなか明るい音楽をかけて一緒に歌っているから、「これ、なんていう音楽?」と訊いたら「ナイジェリアのヨルバ語の音楽。ハッピーだろ」と。確かに。

 彼がクスクス笑いながら、隣を走っている車を指さすので何かと思ってみたら、お~、ハンドル握った両手の間でスマホを操作中。速度が明らかに落ちてる(けっこう混んでいるので自動運転モードにはできない)。「お、あの人もやってるよ」。(「安全」の人間なので書きますが)たった2秒、目の前から注意がそれるだけで交通事故は起こります。見ていると、ピックアップ・トラックを運転しているおじさんはヘッドセットをして、身振り手振りで話しているし(手はハンドルにあってヘッドセットで話していてもまだ危険であることは、実験から明らか)。

 ともあれ、かなりじょうずな運転のおかげで無事、オヘア空港。「アリガト」と言ってくれたので「日本語、知ってるの?」と驚いたら、「大学の時に、ヨーヘイ・オノって同級生がいたから」。米国にいると何が楽しいって、知らない人とあちこちでこういう会話ができること。

 次。飛行場のセキュリティ・チェックで何が面倒って、上着だけじゃなく靴まで脱がなきゃいけないこと。靴も一緒にトレイに乗せるから、当然、トレイは汚い。先月みたニュースによると、飛行場で一番バイキンだらけなのは、セキュリティのトレイだって書いてありました(米国の話)。まあ、しょうがない。機内持ち込みの荷物がひっかかったので、なんだなんだと思ったら「開けていい?」「どうぞ」。なんのことはない、一昨日買って余っていたプルーンがX線画像に写ってて、「丸いモノ」だから疑われたらしい。以上。

 今日のお昼ご飯。パセリやペッパーを刻んで、ゆでたブルガーbulgur小麦に混ぜたサラダと、ベリー&ビーツのスムージー。米国にいると、ポテトチップスも野菜のような気がします(本当)。


 全米で2番目だかに大きいオヘア空港は、明るくていいですね~。あ、今が良い季節だからか。


 ちなみに昨日の夕飯。タコ・サラダを食べたところにもう一度(おいしかったのと、レストランほどめんどくさくないから)。「メニューが新しくなったよ」と言われて、「フィッシュ&ポテト・フライのタコス」と大好物のグアカモレ(日本ではスペイン語の発音に合わせて「ワカモレ」と書きますが…)。タダでついてきた「ミニ・サラダ」がまったくミニじゃないところが立派。今回は大きさの比較のため、ボールペンを置いてみました。全部、食べましたよ。今日は山ほど歩いたので、ジムは行きませんでした(昨日は行きました)。


 米国では、歩行者が渡ろうとしている時には、車は絶対に止まるお約束。でも、こんなに往来の多い交差点では、車にとっても渡る側にとっても至難の業。なぜ、信号をつけない…(←お金がもったいないから)。このあたりはとにかく信号が少ない。


 おまけのおまけ。搭乗口に大きめのワンちゃん。おそらく、emotional support dog(日本語でなんて言うのか知りません…)なのでしょう。


10月3日午後6時(シカゴ時間)


 This morning, I tagged along with the sfaff who does home-visit. The home-visit is a signature project of the Thirty Million Words Initiaive. Oops, I forgot to ask someone to take a picture of me doing the presenation!

 今日は午前中、本にも出てくる家庭訪問プロジェクトにくっついていきました。スペイン語の介入プロジェクトで2週間に一度、LENAを子どもに一日じゅう着け、やりとりを記録、数を分析、その結果を持って訪問するそうです。家庭訪問は計10回で、この家庭は今日で9回め。「これまでは、私が『ほら〇〇だよ』『これは△△だよ』と言っていたのが、最近はこの子(2歳)が自分から、指さして『〇〇だ』『△△』と言うようになってきた」とお母さんがおっしゃっていました(この方はバイリンガルなので、英語で説明してくださいました)。お子さんが自分で、数字の本を作ったと言って見せてくれたのですが、「1」は緑の星がひとつ、「2」は赤い丸が2つ…と「5」まで。5枚の紙をひもでくくって本にしてあり、数字だけでなく、形も色もわかるもの。自分で作ったものだけに、大事そうでした。(プライバシーの観点から、写真は一切ナシです。ランチ・タイムは私のプレゼンテーション…ですが、写真を撮ってもらうのをすっかり忘れました。)

 ちなみに、私がくっついていったミシェルは、英語の家庭訪問プロジェクトの時から担当しているそうで、家庭訪問のエキスパート。どちらかというと静かめで、すごく良い「聞き手」。「家庭訪問って、3つのT云々とは別に、カウンセラーみたいですね」と帰り道に言ったら、「保護者のサポートという面では、その通り」とおっしゃっていました。


 写真は、本のエピローグに出てくるミシガン湖。海じゃありません、湖です(潮のにおいがまったくしません)。琵琶湖と比べて…? 調べてみてくださ~い。



10月2日午後9時(シカゴ時間)


 After a lot of conversations with research staff at the TMW center, I finally had chance to see Dr. Suskind in person! She was in the outfit because she just got back from surgeries.

 ついにダナと会いました! 午前中からずっと手術だったそうなので、手術着のまま。本に書いてあった通り、この姿で走り回っているわけです。この後も、手術着の上に白衣を着て歩いてました。



10月2日午後4時(シカゴ時間)


 いや、びっくり。すごすぎ…。TMW(Three Million Words)センターは、フル・タイムのスタッフが26人もいるんですか…。 それ以外に、リサーチ・アシスタント(学部生、大学院生の有償スタッフ)が常に20~30人、そのうえ、ボランティアも。
 下の写真は、センターの中。建物の廊下ではなくて、センターの中の廊下なんですが、ここから一番奥まで全部、右側にセンターのオフィスが連なっています。


 リサーチ・アシスタント用のブースはこんな感じ。シニア・スタッフのための個室も。上の廊下沿いの部屋以外にも、まだ部屋が…。まずは、サイズに驚き。


 9時からずっと、いろんな人と話をし続け、本日すでに頭の中はいっぱいですが、まずは朝9時直前、シカゴ大学メディカル・センターの前でパチリ。詳細は少しずつ。



10月1日(シカゴ時間)


 Arrived in Hyde Park, near the University of Chicago :) First dinner for this trip was Taco Salad! Dilicious but huge for the person who just arrived from Japan... (This was the lighest thing they guy thought, and I agreed.) I ate them up, though. Now is the time to go to the gym to beat jet lag.

(欧米の友人も読んでいますので、英語併記です。)
 無事、シカゴ・オヘア空港に着き、シカゴ大学近くの宿泊先に到着。こちらの時間で6時。おなかはすいたものの、大きいハンバーガーやお皿いっぱいのパスタは食べたくない…。自然系のお店をみつけたので、「今、日本からついたばかりなのだけれど、なんか軽いもの、ある?」と訊いたら、「サラダは?」ということで、タコ・サラダ(タコスのタコ・シェルを砕いて混ぜているからタコ・サラダ)。アボカドものせてもらいましたが…。やっぱり…。小さく見えると思いますが、これ、日本で注文したら4~5人で分ける量。「サラダが主食」の専門店で出している量の2倍以上…。おいしかったので、全部食べましたが。ちなみに、上に乗っている茶色いものは、「セイタン・ミート」=グルテン・ミートです。「セイタン」は実は日本語発祥。皿の左に乗っている銀色のカップは、ドレッシング。どっさり。

 このお店が嬉しいのは、飲み物(基本、飲み放題)がすべて「砂糖なし!」のところ。さすが、シカゴ大学のエリアだからでしょうか。


 健康的とは言え、食べ過ぎ。時差ぼけ解消のためにも、ジム、行ってきます! 明日は朝からお仕事。